-
北海道・東北
-
関東
-
中部
-
近畿
-
中国・四国
-
九州・沖縄
「巨樹・巨木」とは?
本書の「巨樹・巨木」の選定基準は、幹周(幹まわり)が300cm(3m)以上の樹木としています。
わが国の自然環境保護を推進する環境省の選定基準にならいました。
『巨樹・巨木図鑑』
小山洋二さん
インタビュー
-
#1 “巨木巡りの集大成に”
書籍出版までの道のり国の天然記念物などに指定された巨木は手厚い保護を受けるが、一方、山奥や廃村に人知れず佇む巨木の方が圧倒的に多い。そんな巨木を探しあて、20年間撮影し続ける小山洋二さんが『巨樹・巨木図鑑』を上梓した。47都道府県を網羅した、その数なんと巨木253本。
環境庁の巨木の定義は「幹の周りが3m以上の樹木」だが、本書では幹の周りが10m超えの巨木も数多く紹介している。
▲蒲生のクス(徳島県、幹周24.2m 樹高30.0m 樹齢伝承1,500年)1988年、環境庁が実施した巨樹・巨木調査で日本一に認定。地元の人は「大楠どん」と呼ぶ
「最初に日本文芸社さんから書籍化のお話をメールでいただいたときは『本当かな? スパムかな?』と思いました。制作中も『300冊ぐらいしか売れないんじゃないか……』と思ったり。実際、発売されたら、予想以上に反響がよくてびっくりしています」
現在、増刷を重ねて3刷目(2024年10月現在)。穏やかに話す小山さんだが、書籍出版までの道は容易くはなかった。
巨木に魅せられ20年
「趣味の巨木巡りを始めて20年。自分のペースでのんびり巨木を巡って撮影をしてきましたが、書籍化が決まった昨年はとんでもない数の巨木を訪れて撮影しました」
「20年の間、巨木写真を撮りだめていますが、10年前のカメラと今のカメラでは性能が違いますから、画質のバランスもかなり異なります。せっかくなら、巨木巡りの集大成といえる本にしたかったので、撮り直しに行くことにしました」
しかし、すぐに撮影に出発できるわけではない。地元の人ですら存在を知らない山奥にある巨木の地図はない。小山さんがかつて訪れたことがある巨木も、道なき道を歩いてやっと発見した巨木だ。2度目も簡単に辿り着ける保証はない。
書籍出版のためにまず始めたのは、9,000本の巨木のデータベースを作成することだった。
Google Mapと
格闘の時間「この作業に約1か月。次に幹の周りが8m以上ある巨木の位置を地図の等高線を見ながら、このあたりにいるんじゃないかとGoogle Mapに落とし込みました。数年前から自分のためにGoogle Mapを作り始めていたので、要領はもうわかっていたのですが、これが結構大変な作業で……。いずれやる作業だと腹を括ってコツコツとすすめ、最終的には1,500本の巨木をGoogle Mapに登録していました」
この本には掲載した253本の巨木それぞれに二次元コードが記載されている。スマホで読み取ると直接Google Mapが表示され、樹木の場所が一発でわかる仕組みになっている。
▲ピンで埋め尽くされた小山さんのGoogle Map。小山さんのホームページには、日本を飛び出し海外の巨木探訪レポも紹介されている。ぜひ、チェックしてほしい。ホームページ『巨木の世界』https://bigtrees.life/
投稿閲覧数は
5億回超!「山奥の巨木探しはとても大変なんです。自分が一度訪れて苦戦した巨木の場所を簡単に検索できたら、次回現地で苦労することが格段に減ります。私の本を読んで『行ってみたい!』と思ってくれた方も、場所探しがお手軽になりますからね。私がGoogle Mapに投稿した場所や写真、レビューって、現在、5億回ぐらい見られているんですよ。すごいですよね!」
▲取材中、にこやかに話す小山さん。話がはずみ取材1時間の予定を大幅に延長させていただくことに
全国各地のデータベース、Google Mapを作成すること3か月。こうしてやっと撮影がスタートした。
画像提供:小山洋二取材・文:別府優希
著者撮影:天野憲仁(日本文芸社)
-
#2 “巨木に愛されているかのような奇跡の連続” 東北巨木巡礼の旅
週5日は仕事、休日の2日は巨木を撮影に行く日々が始まった。
小山さんは会社の代表を務める経営者でもある。仕事が終わるとすぐに車を飛ばして目的地へ。長時間の運転後、場合によっては到着後すぐに巨木探しの登山が始まる。
とりわけ県全体の面積が大きい東北地方をいかに攻略するかが問題だった。小山さんの地元・愛知から2日間の休日で気軽に行ける距離ではない。
そこで小山さんは2023年7月に長期休暇をとり、「東北巨木巡礼の旅」をスタートさせた。
奇跡の連続「木が雨を
止めてくれている」「予報では降水確率が高い日が多い日程でした。実際、巨木がある山の麓に着くまでは土砂降り。そんな日々が続くのに、なぜか毎回、巨木に辿り着くと雨がぴたりと止む。晴れ男なんていう次元じゃないほどでした。『木が雨を止めてくれている』と思ってしまったぐらい、天候に恵まれました」
▲松保の大スギ(山形県、幹周10.6m、樹高26.0m、樹齢伝承650年)圧巻の巨大さを見せつける東北最大級のモンスター
撮影中は秒単位で雨が止むというミラクル。
本書の撮影のために170~180本の巨木を訪ねたが、撮影中は1本も雨が降らなかったのだそう。巨木に愛されているようだ。雨上がりは絶好の
撮影チャンス「巨木を目の前にして、雨が降り出すことは過去に何度もありました。そんな時は『迎え入れてもらえなかったなあ』とがっくりします。雨が降ると雨粒に邪魔をされてピントが合いませんから、いい写真は撮れません」
▲権現山の大カツラ(山形県、幹周20.0m、樹高40.0m、樹齢1,000年)急坂を登り切った者だけが出会える日本一のカツラ
「けれど、この本の撮影では1本も雨が降らなかったんです! 雨が止んでくれたのも奇跡でしたし、撮影前に雨が降ると木の色がしっかり出て、緑がより濃い色になるのでありがたかったですね」
カメラを趣味にしている人ならよくわかると思うが、天候は画像の仕上がりを大きく左右する。加えて、大きな被写体は撮影がとても難しい。
「幹周りが10mを超えている大型の巨木は非常に撮りにくいです。でも、そういう巨木に出会った時が、逆におもしろいんです。」
▲方正寺の大カヤ(福島県、幹周8.7m、樹高16.0m、樹齢300年以上)日本一巨幹のカヤは樹冠が直径30mにも及ぶ広大さ
「全形を画角に入れてしまうと圧縮されてしまうし、太さを表現しようとすると全く画角に入らない。なんとか太さや巨木感がわかるように撮ってはいますが、実際、『まだもっと巨木感が伝わる写真が撮れるはず』と思う木がたくさんあるので、リベンジ撮影は続けますよ!」
巨木撮影にベストな
タイミングは?私たちが巨木を訪ねるベストなタイミングを教えていただいた。
「巨木が最も美しく、力強く神聖に見えるのは、晴れた日の早朝です。とくに太陽が昇る前から昇った直後の時間がとても美しいです」
「樹種にもよりますが、個人的には新緑がきれいな初夏がおすすめです。撮影目的で訪れるときは前述したように雨上がりがベストですが、このタイミングを狙うのはなかなか難しいと思います」
小山さんが巨木巡りで愛用しているアイテムをご紹介。巨木巡りの参考にしてください。
巨木巡りに必携のおすすめアイテム
GPS ジオグラフィカ(アプリ)
■巨木探しをするために山に深く入る時用
Anker Nano Power Bank
■充電器。充電ケーブルがないので使いやすい
カメラグッズ/PLフィルター
■葉っぱの反射が消えて緑が鮮やかに写る
ワイヤレスリモコン
■自撮り用
取材・文:別府優希
著者撮影:天野憲仁(日本文芸社) -
#3 私が巨木に惹かれる理由
多くの人は巨木といえば「神社などによくある大きな木で、しめ縄や白い紙(紙垂/しで)が巻いてある木」や、有名な「屋久島の縄文杉」を思い出すぐらいの認識ではないだろうか。
そこで小山さんに、「一度は見てほしいおすすめの巨木」を厳選していただいた。
小山洋二さん
おすすめの巨木「巨木の魅力が伝わりやすい木を選んでみました。山奥の巨木もあれば、わりと行きやすい場所もあるんですけど……」
■細蔵山 幻の大杉(富山県)
■加茂の大クス(徳島県)
■志々島の大くす(香川県)
■花脊の三本杉(京都府)
■高井の千本杉(奈良県)
■松保の大スギ(山形県)▲細蔵山 幻の大杉(富山県、幹周11.9m、樹高23.0m、樹齢1,070年)
▲加茂の大クス(徳島県、幹周13.0m、樹高25.0m、樹齢1,000年以上)
▲志々島の大くす(香川県、幹周14.0m、樹高40.0m、樹齢伝承1,000年)
「とくにおすすめなのは、富山県の『細蔵山 幻の大杉』です。2013年に発見された推定樹齢1,000年以上の大スギで、立山杉としては最大級です。主幹から分岐した太い幹が株立ちとなり、30本で樹冠を形成しています。2013年まで発見されなかったのは、それまでは登山道がなくて、細蔵山の難易度が高かったからなんです」
新発見!
富山の大杉たち「この大スギを見た時、『この周辺にはまだまだ巨木がある』と直感し、この本でも紹介している『根室蛇杉』『兜大杉』『炎柱杉』を発見できました」
▲根大蛇杉(富山県、幹周不明、樹高不明、樹齢不明)
▲兜大杉(富山県、幹周不明、樹高不明、樹齢不明)
▲炎柱杉(富山県、幹周不明、樹高不明、樹齢不明)
小山さんが発見した巨木は、本書では小山さんが名付けた。『炎柱杉』など、支幹が炎のように昇りたつように見えて、巨木の形状を見事に言い表す絶妙なネーミング。それまで存在すら知られていなかった大樹が身近に思えてくるから不思議だ。
では、小山さんが個人的に気に入っている巨木はあるのだろうか。
高台にある
薬師堂を包み込む
クスノキのもとで「私の好きな木は愛知県の『寺野の大クス』です。巨木としてはマイナーにはなるんですが、木の根が露出してでこぼこしている全国的にも珍しい形の木です。自宅から1時間ぐらいで行ける気軽さもあり、物思いに耽りたい時は、その木に会いに行くんです。すぐそばに薬師堂があるので、座ってぼーっと眺めたりしています。なぜか心が落ち着くんですよね」
▲寺野の大クス(愛知県、幹周12.0m、樹高36.0m、樹齢 伝承1,000年)
小山さんが20年前に巨木巡りを始めたきっかけは「水巡り」だったのだそう。
きっかけは
「源泉探し」「もともとは源泉の水を飲みたくて、川の大元や水が湧いている場所を訪ねていました。行ってみると、大きな木の根本から水が沸いていたり、近くに大きな川が流れていることが多くて、興味を持ったんです。巨木好きになった決定打は山梨県の『日影のトチノキ』を見た時でした」
「『こんなに大きいものが存在するのか!』と、結構な衝撃と感動を受けましてね。そこから、巨木を巡るようになりました」
巨木に惹かれる
理由とは?小山さんが巨木に惹かれる理由はどんなところにあるのだろうか。
「理由……というより、巨木に会うと、最も心が動くんです。衝撃、感動、悲しみ……、喜怒哀楽の心が全部揺れ動くんです。人は大人になると、ちょっとやそっとじゃ驚くことがないと思うんです。でも巨木に会うと毎回驚くんです。『なんだこれはぁぁあ!』と。巨木の周りをぐるっと回って子供みたいに大はしゃぎ、みたいなことになってしまうからです」
小山さんの感動っぷりがしっかりと伝わってくる。”悲しみ”まで感じてしまう理由を聞いてみた。
「樹齢1,000年とか2,000年という点は、伝承だったりして定かではない部分もありますが、巨木は地球上で最長老の現役の生き物です。
その最長老も倒木したり、朽ちたりして、いずれは死んでしまいます。私の巨木巡りのきっかけになった『日影のトチノキ』も大枝が折れてしまったので、本書には掲載できませんでした」「私はいつも『2,000年生きていらっしゃる最長老』を敬う感覚で巨木に会いに行きます。スピリチュアル的な考えになるかもしれませんが、私は巨木に触って、木のエネルギーを自分に入れて、自分のエネルギーも木に入れる、みたいな感覚なんです。弱っている巨木がいれば『よかったら自分のエネルギーをどうぞ』と循環させる感じ。柵がない場合ですけどね」
「クジラを保護、イルカを保護ってよく語られますけど、木を保護ってあまり聞きませんよね。人間のエゴであっさり伐採、台風で倒れても誰も知らない、それは寂しい話です。 私の巨木巡りもちょっと使命感的なものでいえば、先人が残したものを記録として残し、伝えていくという考え方に、年々変わってきています。この本にはそんな思いも込めました」
▲「巨木探しは、登山とは大きく違う。登山が山頂を目指すのに対して、巨木探しは目的地がわからない探検のようなもの」と小山さんは語る
最後に『巨樹・巨木図鑑』刊行後の、今の素直なお気持ちをお聞かせください。
「読者の方から『実際に本を持って旅に出ました』という報告をいただいて、とってもうれしかったです。買っていただいただけでもありがたいのに、巨木に興味がなかった人が、自分が撮った写真を見て行動してくださった。それが僕が巨木の写真を撮る意味と願いなので、それがこの本で叶いました」
「2023年は47年間生きてきた中で一番行動したと思います。『いつかは全県の巨木を制覇しよう』と考えていた長年の夢も実現できました。最後の県、栃木を訪れた時のやり切った感はすごかった! 山中での巨木探しはハードですが、いつも心が小躍りしていて楽しいんですよ。 やっぱり巨木が好きなんでしょうね」
所在地非公開の「森の巨人」屋久島の七尋杉を目指した冒険記も収録した『巨樹・巨木図鑑』。ハンディサイズ図鑑とは思えぬその迫力は必見!興味を持たれた方は、まず本書の二次元コードで巨木の位置を調べてみるのも一興。
もし近くに存在していたら、ぜひ訪れてみてほしい。
何百年、何千年と厳しい自然の中で、大地に根を張って生き抜いた巨木の勇姿に感銘を受けるだろう。
取材・文:別府優希著者撮影:天野憲仁(日本文芸社)